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東京地方裁判所 昭和60年(刑わ)2972号 判決 1986年2月19日

本籍

神奈川県横浜市旭区二俣川二丁目一六番地

住居

大阪府大阪市旭区中宮四丁目一番九号

企業情報紙販売員

海老原洪植

昭和二六年二月二四日生

右の者に対する相続税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官櫻井浩出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月に処する。

未決勾留日数中一〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都町田市中町二丁目一七番二〇号に居住して不動産賃貸業を営む分離前相被告人青山吉彦から同人の実父青山藤吉郎の死亡(昭和五八年二月二七日)により同人の財産を他の相続人と共同相続したことに伴う右青山吉彦の相続税等を免れることについて相談を受けていた者であるが、分離前相被告人清水文平、同岸廣文、同松﨑繁昭、同森岡洋及び前記青山吉彦らと共謀のうえ、架空債務を計上して課税価格を減少させる方法により右青山の相続税を免れようと企て、昭和五八年八月二六日、東京都町田市中町三丁目三番六号所在の所轄町田税務署において、同税務署長に対し、被相続人青山藤吉郎の死亡により同人の財産を相続した相続人全員分の正規の相続税課税価格は一一億三三九八万三〇〇〇円で、このうち右青山吉彦分の正規の課税価格は四億七一八五万三〇〇〇円であった(別紙(1)相続財産の内訳及び別紙(2)脱税額計算書参照)のにかかわらず、右藤吉郎には株式会社広洋に対して借入金二億円及びこれに対する未払利息七八五万七一四三円の債務があり、その全額を右青山において負担すべきこととなったので、取得財産の価額からこれを控除すると相続人全員分の相続税価格は九億二六一二万五〇〇〇円で右青山分の課税価格は二億六三九九万五〇〇〇円となり、これに対する同人の相続税額は九八〇四万三六〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書(昭和六〇年押第一四七五号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同人の正規の相続税額一億八九五九万二〇〇円と右申告税額との差額九一五四万六六〇〇円(別紙(2)脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する昭和六〇年一〇月一七日付、同月一〇日付、同月一五日付、同月一六日付、同月一八日付、同月一九日付二通(五枚綴のもの及び七枚綴のもの)各供述調書

一  分離前の相被告人青山吉彦、同清水文平、同岸廣文、同松﨑繁昭及び同森岡洋の当公判廷における各供述

一  青山吉彦(昭和六〇年一〇月三日付、同月一〇日付、同月一二日付、同月一三日付、同月一四日付、同月一五日付((二通))、同月一六日付)、清水文平(昭和六〇年一〇月四日付、同月六日付、同月七日付、同月八日付、同月一〇日付、同月一一日付、同月一二日付、同月一三日付、同月一四日付)、岸廣文(昭和六〇年一〇月五日付、同月八日付、同月一一日付、同月一五日付、同月一七日付)、松﨑繁昭(昭和六〇年一〇月一五日付、同月一六日付、同月一六日及び一七日両日付)、森岡洋(昭和六〇年一〇月一五日付、同月一六日付、同月一七日付((二通))、同月一八日付、同月一九日付)、菊地キヨ(五通)、飯田義忠、清水利文(二通)及び青山浩の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  未払金調査書

2  借入金調査書

3  保証債務調査書

4  測量費調査書

5  租税公課調査書

6  取得費調査書

7  特別控除額調査書

一  押収してある青山吉彦の相続税の申告書一袋(昭和六〇年押第一四七五号の1)

(法令の適用)

一  罰条 刑法六〇条、六五条一項、相続税法六八条一項

一  刑種の選択 懲役刑選択

一  未決勾留日数の算入 刑法二一条

(量刑の事情)

本件は、共犯者青山の相続税を不正に免れるため被告人が共犯者清水とも相談のうえ、共犯者森岡を通じて同岸らの脱税請負グループを紹介し、同人らを含めて判示の共謀を遂げ相続税法一三条の規定を悪用して架空債務を計上したうえ、税務調査に備えて右岸らが領収証をねつ造し、更に虚偽の借用証書の作成を青山らに指示するなどの措置を講じたうえ、情を知らない税理士をして右青山の相続税の申告をさせて、九一五四万円余をほ脱したという事案であって、その犯行態様は、計画的かつ巧妙で、ほ脱額も高額であり、ほ脱率も約四八パーセントと高く、全体としての犯情は悪質であるといわなければならない。そして本件当時横浜市内に居住していた被告人は、清水を通じて青山に多額の相続税の問題が生じている旨を聞きつけるや、単に自己の報酬を得たいとの動機のみから納税義務者である青山と大阪府内在住の岸ら脱税請負グループを結びつけるべく、右青山に対し、岸らに脱税工作を依頼するよう勧める一方、大阪側の窓口となっていた森岡と連絡をとった上、青山を大阪市内の株式会社広洋事務室へ案内して岸らに引き会わせるなどしたばかりでなく、申告後、岸らの指示に基づき青山において行った虚偽の借用証書の作成に立ち会ったりなどしているもので、被告人の行動がなければ本件は実行困難であったことに鑑みると、被告人の本件における役割を軽視することはできず、さらに、その後の青山の相続税の更正請求や所得税の確定申告に関する一連の脱税工作においても連絡的な役割を演じていることがうかがわれること、加えて、被告人は本件などにより約一五〇〇万円もの高額な報酬を得ていること、また、被告人には道路交通法違反により懲役刑(執行猶予付)に処せられ、さらに神奈川県青少年保護育成条例違反により罰金刑に処せられた各前科があること等をも併せ考慮すると、被告人の刑事責任は重いと言わなければならない。

したがって、本件ほ脱方法の具体的発案者は、岸らの請負グループであること、被告人の得た報酬額が、他の共犯者と比較して少額であること、金の捻出先はともかくとして、被告人は青山から得た報酬に関し同人と示談し、本件に関する利得から二〇〇万円を返還したこと、本件について反省の態度を表わしていること等被告人に有利な事情を最大限に考慮しても、主文程度の実刑はやむを得ないと判断した次第である。

(求刑 懲役一年)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 石山容示 裁判官 鈴木浩美)

別紙(1)

相続財産の内訳

昭和58年2月27日

青山吉彦

<省略>

別紙(2)

脱税額計算書

<省略>

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